素材から作りまでメイドインジャパン。

日本のタンナーTanner

細部にまで手を抜かないオンリーワンのレザー
株式会社 前實(兵庫県姫路市)

1トライ&エラーの繰り返しが成功への道のり

「社名の由来? 先代の親父が前田實生(まえだ・みのる)やから、それを略して前實です」 前實の代表である前田大伸(まえだ・だいしん)さんは、そういって口元をほころばせた。創業は1976年。靴用の革をメインに、原皮の処理から仕上げまで一貫して携わり、オンリーワンのレザーを追求。大伸さんが社長になってからも、弟の大志(たいし)さんと協力し、独自の視点で革づくりを行っている。
その代表例といえるのが、京友禅とコラボレーションした「姫革友禅」。京都の染色業者から依頼を受け、先代の頃より研究を続けてきた。そして、大伸さんの代でやっと安定した品質の革が製造できるようになり、世界的なファッション見本市「プルミエールビジョン・パリ」にも出品した。
「長らく課題だったのは、色味の安定性です。最初のころは、なかなか先方の求める色が出せなかったのですが、薬剤を投入するタイミングや時間などをひたすら試して、やっと安定した品質のものがつくれるようになりました」
また、デザイナーからの依頼で、日本の金唐革のルーツであるルネサンス期のイタリアで誕生した「クオイドーロ」の再現にも成功。その完成品を見た現地の有識者に、太鼓判を押されたこともある。研究熱心な前實だからこそなせる仕事である。

2しなやかなレザーが靴へと姿を変える

国内のさまざまなメーカーとも取引がある同社。今回は、足に負担の少ない婦人靴を生産する藤原化工との関係にスポットを当てたい。
「藤原さんとは、本当にこまかく打ち合わせをして革をつくっています。しなやかでやわらかで軽い革というオーダーなので、乾かしては水をやり、乾かしては水をやり、そうやって味を引き出していきます。ここは作業においても大切なポイントですね。今は6種類の革をつくっています」
そうして完成した革を用いた靴は、想像以上に完成度が高いものだったという。
「最初に手にした感想は、『なんじゃこれ、軽っ!』(笑)。手前味噌ですけど、うちの革がこんないい靴になるんやと思いました。藤原さんとも話すのですが、文字どおり、“革”が“化”けて“靴”になっていると思います」
同社は2017年、大伸さんの息子であり、後継者でもある悠貴さんが主体となり、工場の近くに『ClassyDay』というショップをオープン。自社で製造したレザーや革小物のほかに、藤原化工のオリジナルブランド「…AshiOtO(アシオト)」の靴も扱っている。両社は理想的な協力関係を結んでいるといえるだろう。

3「痒いところに手が届く」のが日本の革

皮革産業の集積地において、長年にわたって革をつくり続けてきた前實。ジャパンレザーについては、独自の見解を持っている。
「日本の革を一言でいえば、『痒いところに手が届くレザー』(笑)。お客様からのどんな要望にも応えられる技術が強みやと思います。そのためには、やっぱりものづくりに対する実直な姿勢とメーカーさんとのコミュニケーションが大切ですね」
そんなジャパンレザーをPRするのが、ジャパン・レザー・プライド・タグの役割だが、大伸さんは世界を見据えてある提言をしてくれた。
「国内では通用すると思いますけど、国外でどこまでアピールできるかは未知数ですよね。英語版のタグが必要になるくらい、ジャパンレザーが盛り上がれば理想的です。海外では、量産型の製品じゃなく手がかかっているという評価はあるけど、まだ広く魅力が伝わっていないかもしれないので、そこをクリアしていきたいですね」
ベテランの域に達しつつも、「街でうちの革を使った靴を履いている人を見ると、メチャクチャうれしくなります」と、フレッシュな感覚を忘れない大伸さん。いつまでもそんな感性で革づくりを続けて行けば、目標とする海外展開の実現もそう遠くないはずだ。

2019/11/13 公開
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