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暮らしに寄り添う日本の革2022年01月28日

和装小物から始まったルーツを活かし
日本のものづくりの多様性とすばらしさを伝えていきたい

株式会社 高屋/商品部 薄井芳典さん

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和装小物から始まったルーツを活かし日本のものづくりの多様性とすばらしさを伝えていきたい

身に着ける衣類、家具、そして小物たち......。身近に存在する革に関するモノコトを、革を愛し、ふだんのライフワークとしている人に聞く。日本の革の魅力って、ずばり何ですか?

1953年に東京・蔵前で創業した老舗「高屋」が手掛けるレザーブランド「Arukan(アルカン)」。時代に合わせてさまざまなスタイルを提案してきた高屋が原点に立ち返り、2021年には「Arukan F(アルカンエフ)」という新しいコレクションがスタート。商品部の薄井芳典さんに、その経緯と思いを伺うため、東京・蔵前にオープンしたブランドショップを訪ねた。

歴史あるブランドが未来を見据えて行ったこと

2021年8月、都営浅草線の蔵前駅から徒歩30秒ほどの好立地にオープンしたArukanの直営店。店内は通りに面してガラス張りとなっており、開放感のある雰囲気と店内に陳列したカラフルなレザーアイテムに惹かれて足を止める通行人も多い。実際に店内に足を踏み入れてはじめてレザーアイテムということに気づく人もいるという。

株式会社 高屋 / 商品部 薄井芳典さん
「牛革に箔加工を施し、華やかなローズ柄を型押ししたシリーズは若い女性を中心に人気です。クロコダイルの型押しにエナメル加工で艶やかな輝きをプラスしたものは、年齢層を問わず、幅広く支持されています。Arukanは、その時代のスタイルに取り入れやすいカジュアル感と、さりげなく演出できるラグジュアリー感を大切にしてきたブランドです。感度の高い女性に向けて幅広いラインナップを展開し、百貨店やショップで好評を得てきました。しかしながら長く続けていると、その販路の多さゆえ商品の幅が広がり、目指すものがみえにくくなるという課題も出てきます。原点に立ち返るべく、そして未来を見据えたものづくりの核を再確認するために、社内でArukanブランドの検討と整理を行ったのが2020年のことです」
株式会社 高屋 / 商品部 薄井芳典さん

入社以来、心に抱いていたすばらしい素材と技術力への共感

そもそも高屋は1953年に和装小物づくりで創業した。1962年には、製造技術者を養成し工場生産への道を拓くため、現在の千葉県・市川工場の前身である「八幡研究所」を開設。こうした背景から技術力の高い職人を有し、品質レベルには古くから定評があった。

株式会社 高屋 / 商品部 薄井芳典さん
「僕は異業種の会社で4年ほど営業を経験した後、バッグの作りや業界の勉強も兼ねて高屋に就職したんです。元々、高屋の技術力の話は聞いたことがあったのですが、実際に入社してみて、そのすばらしさに驚いたことはよく覚えています。『これで良いのか、もっと良い方法はないか』。これは高屋の職人たちが毎朝唱和しているスローガンのひとつですが、まさにこの精神が息づいているのです。和装小物は個人的にはさほど意識したことはなかったのですが、そのルーツがあって現在がある。たとえば、やわらかく薄い革製品の仕立て方法には、"へり返し"というものがあります。熟練職人の技術も必要ですし手間暇かかる方法ですが、出来上がった製品は軽やかで、手が小さい女性が持っても似合うサイズ感やエレガントな趣も演出できるんです。この金唐革のバッグ(写真上)も、こうした和装の技術が盛り込まれています。技術や仕上げのこだわりは、和装小物からスタートしている高屋ならではの強みだと思います。だからこそ、継承されているものづくりの精神が宿るブランドをいつかやってみたいなと思っていました。」
株式会社 高屋 / 商品部 薄井芳典さん

いつかはもっと高屋の良さを分かってもらえるブランドができればと考えていた薄井さんだが、企画部に配属となったことで大きな転機が訪れた。

「入社以来、心の奥でずっと考えていたブランドづくりを実現させるためにスタートしたのが『Neutral Gray(ニュートラルグレイ)』です。このブランドでは、流行に左右されず、ほんの少し気の利いた機能とデザインを丁度良いバランスでシンプルに表現することをコンセプトに掲げています。Arukanとは世界観が少し異なりますが、その真髄にあるのは高屋の技術力で、なかでも"軽さ"は大きな特徴です。特にバッグや財布など日常的に使う製品は、質感やデザイン、さらにそれらを軽やかに使いこなせることが大切。日々使う道具として考えたときにも、欠かすことはできない要素です。この"軽さ"を実現するために、革屋さんや生地屋さんとは細かなやりとりを重ね、素材選びはもちろんですが、革に使用するオイルの量、染色の方法などの組み合わせで理想に近づくように試行錯誤しています。革の魅力や価値は、まさに千差万別。例えば野菜に傷があると途端に価値が下がってしまいますが、革は傷やシワも使う人によっては味わいとして好まれます。さらに安価な革でも加工を施すことで付加価値をつけることも可能です。許容範囲のなかでどれだけ魅力的な素材に昇華できるか。ただ製品を企画するだけでなく、素材づくりの楽しさがあるのも、僕はこの仕事の奥深さだと思います」

ブランドの強みをより活かした新ブランドがスタート

ニューノーマルな生活となり消費者の購買意識や行動は大きく変化した。このご時世に新ブランドのスタートに加えて、直営店のオープンなどArukanのブランディングは加速度を増している。

株式会社 高屋 / 商品部 薄井芳典さん
「Arukanのブランディングの検討と整理を行い、改めて高屋の強みを考えたときに、"使いやすさ"や"軽さ"、"2次加工のバリエーションの豊かさ"、"素材使いの多様性"というキーワードが見えてきました。なかでもArukanが得意としている"織り"や"編み"のテクニックによりフォーカスしたブランドとして立ち上げたのがArukan Fです。FはFutureとFoundationの意味です。そしてArukanとArukan Fの世界観をしっかりと体感してもらえるリアルな場づくりとして、蔵前にブランドショップをオープンしました」
株式会社 高屋 / 商品部 薄井芳典さん

長きにわたり続いてきたArukanは、お客様の要望を可能な限り実現するように製品のラインナップを増やしてきた。それゆえブランドの世界観の輪郭がぼんやりしてしまい、捉えづらいという課題もあったのだ。

株式会社 高屋 / 商品部 薄井芳典さん
「これまでショップやバイヤーさんに寄り添うように製品を届けてきましたが、ブランドの空気を体験してもらえる場所として、この直営店は大きな役割を果たしていくと思っています。もちろんインターネットでの紹介を通しての訴求も大切だと考えていますが、リアルな場だからこそできることの広がりはまだまだあります。私たちがもつ技術力や良質な素材を、製品を通してだけでなく例えばこのショップで職人が講師となるワークショップに参加してもらうことでよりよく知っていただくことができるでしょう。なかには、工芸的な技術をもつ職人の方もいます。私たちの製品や活動を通して、日本のものづくりのすばらしさを少しでも多くの方に届けられたら嬉しいですね」
和装小物から始まったルーツを活かし日本のものづくりの多様性とすばらしさを伝えていきたい

Arukan(アルカン)

●場所/〒111-0051 東京都台東区蔵前313 やないビル1F
●電話/03-5809-3031
●URL/https://www.taka-ya.co.jp/

取材・文/村田奈緒子 
写真/山北茜

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