一子相伝の伝統技法で精緻な美を表現する甲州印伝
株式会社 印傳屋上原勇七(山梨県甲府市)

燻べの技法を用いた合切袋(左が正平柄、右が蜻蛉柄)と長財布
鹿革と漆の組み合わせが甲州印伝の原点
株式会社 印傳屋上原勇七の創業は1582年。江戸時代に入ると、遠祖の上原勇七が鹿革に漆付けする甲州印伝を創案し、その技法を用いた巾着などが粋を好む洒落者の間で流行。当時の様子が『東海道中膝栗毛』に記されるなどして、さらに知名度が高まっていった。

欧米人向けのサイズ感を意識した「INDEN EST. 1582」のニューヨークトートバッグB。
アイテムとしては、小物からバッグまで幅広くラインナップ。2011年には、海外に向けたオリジナルブランド「INDEN NEW YORK」を立ち上げ、欧米人向けのサイズ感や機能性を追求したプロダクトを考案し、その魅力を世界に発信している。

甲州印伝に欠かせない素材の鹿革。
「甲州印伝は、鹿革であることが前提の伝統工芸品です。鹿革は軽くてやわらかく、また丈夫であることから、かつては鎧兜、現在は武道の道具に使われています。ふわりとなめらかで肌馴染みがよいので、皮革製品としての使い心地は抜群です」
鹿革と同様に重要なのが、日本の美を象徴する素材のひとつである漆だ。

鹿革に刷り込む漆は職人が硬度を調整する。
ソフトな鹿革と硬質な漆。この組み合わせが、甲州印伝を唯一無二の伝統工芸品へと価値を高めている。そして、鹿革の地の色、漆の色、模様の組み合わせにより、多種多様なパターンを生み出すことができる。
熟練の技法を受け継ぎ、時代の感性を彩る
甲州印伝は、卓越した技術を持つ職人の技によって完成する。
代表的な技法として知られるのが漆付けだ。鹿革の上に型紙を載せ、漆を刷り込むことで模様を施す。職人は天然素材である本革と向き合い、漆を均一に、そして立体感を際立たせるように塗っていく。

鹿革の上に型紙を置き、漆を均一に塗っていく。
そう語るのは、広報部の早川さん。漆によって浮かび上がらせる甲州印伝の模様には、小桜、蜻蛉(とんぼ)、青海波(せいがいは)など、日本ならではの様式美が多く採用されている。

ストックしている型紙は数百種に及ぶ。
同じ模様付けでも、燻べ(ふすべ)の技法はまるで異なる。太鼓と呼ばれる筒に革を張り、藁を焚いた煙によって茶褐色に染め上げていく。糸を巻き付け縞模様にする手法と、革の上に糊で型紙を貼り付けて模様を施す手法の二つがあり、職人の緻密な技術により、鹿革に味わい深い模様が生まれる。

燻技法は、煙を発生させることが目的なので、藁は火を出さずに燃やす。
このような技法を受け継ぎつつも、「時代に合わせたアップグレードが必要」と話すのは、専務取締役の上原伊三男さんだ。

専務取締役の上原伊三男さん(右)と営業部長の浅川浩一さん。
伝統工芸品に時代の感性を彩る甲州印伝は、常に進化を続けている。