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日本のタンナーTanner

ラムとゴートをメインとするソフト革の製造に矜持あり
株式会社 小笠原染革所(東京都墨田区)

1イギリス留学の経験を活かした革づくり

1903(明治36)年の創業以来、4代続く小笠原染革所。主力として扱っているのは婦人靴用のラムとゴート。ソフトな風合いの革づくりに定評があり、一枚一枚を丁寧に製造している。
代表の小笠原誉行さんは、大学卒業後、先代の勧めを受けてイギリスのネネ・カレッジ(現ノーサンプトン大学)に留学。革づくりの基礎を一から学んだ。
「現地の英会話学校に4カ月通ったのち、皮革学校で1年間学びました。革に関する化学の基礎を始め、原皮の処理からフィニッシュに至るまでの実技、フィジカルテスティングのノウハウと、理に適った技術と知識が身に付きました」
帰国直後こそ留学で学んだことを活かす機会はなかったが、後年になって「おもに染色工程において、勘や目分量で行っていた作業を見直し、データを蓄積して合理的な方法を採用するようになりました」と、小笠原さんは語る。
2004年に代表取締役に就任して以降は、ターゲットを明確に絞ったニッチな革づくりにシフトチェンジ。また、工場の老朽化に伴う建て直しにも着手し、水処理設備の設置や干し場の拡張などに力を注いできた。現在も随時職場環境の整備を行っている。

2ベテランから若手へ技術を継承

工場の老朽化と並行して大きな課題だったのが、若手への技術の継承だ。とくに、高齢になった染色職人の代わりとなる人材の育成は急務だった。
「10年以上後継者が見つからず苦労していましたが、最近になってようやく若手がふたり定着しました。ひとりはかつて製革業を営んでいた家の息子で、私自身もご両親の技術を勉強させていただき、当社の仕事に活かしています。もうひとりはまったくの初心者ですが、熱心に学んで頑張っています」
一口に染色といっても、その技術は非常に奥が深い。
「レシピどおりに染色をしても、たとえば夏に仕入れた革と冬に仕入れた革では染まり方が違う様に、様々な条件によって微調整をしなければいけません。色出しに関しては、30種類以上ある染料一つひとつの特徴を掴み、経験と感覚を生かして調合の方法を習得する必要があります。いまはふたりがだいぶ仕事をおぼえてくれたので、一安心というところですね」
染色に加え、仕上げ場の職人も着々と世代交代が進行中。100年以上続く小笠原染革所の技術は、こうして無事に受け継がれているようだ。

3環境問題に配慮した排水・廃棄物の処理を実践

小笠原染革所では、環境への配慮も忘れていない。革が副産物のリユースであることを念頭に置きつつ、排水や廃棄物の処理方法に留意している。
「時代的にも環境問題が重要になってきていますから、水や薬品の使い方などについては常々気を配っています。今後は必要な設備投資を行い世界水準レベルのタンナーを目指したいです。そうすることが、メーカーさんなどへの対外的なアピールにつながると考えています」
最後に、タンナーとしての展望を伺った。
「従業員全員が働きやすい環境を整え、誰もが欠けることのないまま、現状の生産の流れを維持していきたいです。技術に磨きをかけるのと同時に、品質の安定性や納期までのスピード感といった部分でより精度を高めていきたいと思っています」
小笠原さんの実直な話しぶりから、仕事に対する誠意がひしひしと伝わってきた。

2022/9/2 公開
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