未知なる可能性を秘めた気品あふれる革着物
株式会社オールマイティ × 高田和裁

革着物にチャレンジした3人。左から高田さん、早奈恵さん、水瀬会長。
オールマイティのオリジナルレザーといえば、姫路発祥の白なめしを現代風にアレンジした「姫山水」と、カーフを使用したタンニンなめしの「渋山水」。今回は姫山水を使って着物の制作にチャレンジ。プロジェクトにかかわった株式会社オールマイティ(以下、オールマイティ)の水瀬隆行会長(以下、水瀬会長)、高田和裁の高田典浩さん(以下、高田さん)、2008年開催「第46回 技能五輪全国大会」和裁部門で優勝した高田和裁の縫子、高田早奈恵さん(以下、早奈恵さん)に話を聞いた。
姫路発祥の白なめし革を現代風にアレンジ
今回のコラボレーションはどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

白なめし革への熱い思いを語る水瀬会長。
水瀬会長
高田さんとは10年以上前からの知り合いで、高田和裁に一流の腕を持つ縫子さんがいることは知っとったんです。そこで、無理いうて「革で着物をつくってもらえませんか」とお願いして。まあ、ゴリ押しですわ(笑)。
高田さん
正直に話すと、はじめは話を受けるか迷いました。経験上、異業種コラボの難しさはわかっていますし、納得いくものができなかったら、オールマイティの名前も高田和裁の名前も貶めてしまいます。一方で、革素材の着物となれば話題性は抜群だし、面白い試みであるとも思いました。何より、信頼できる水瀬さんからの話だったので、悩んだ末にお引き受けすることにしました。
着物に使用している革はオールマイティのオリジナルである姫山水ですね

白なめしを現代風にアレンジした姫山水。
水瀬会長
いわゆる姫路の白なめしの系譜を受け継ぐ革です。伝統的な白なめし革は塩と菜種油でつくっていますが、姫山水は昔みたいに天然油というわけやなしに、薬品用の油をメインに使っています。ちなみに、日本エコレザー認定(Japan Eco Leather=JEL)のゴールドを取得しています。
やはり、地元伝統の革を残したい、伝えていきたいという思いがあるのでしょうか。
水瀬会長
その思いを込めてつくっています。白なめしは、姫路でタンナーをしている僕らの基本となる革です。けっしてないがしろにはできません。
高田さんや早奈恵さんの方から、革について何か要望を伝えたのでしょうか。

オールマイティを支えるメンバー。
左から、水瀬会長、後藤鈴さん、水瀬英里奈さん、水瀬大輝社長。
高田さん
私どもは革についての知識がないので、破れんギリギリまでできる限り薄く、ということだけお伝えしました。
水瀬会長
薄くする漉きの工程は外部に依頼しているから、いかに漉きやすい革にするか力を入れました。最終的には0.12mmまで薄くしてもらいました。
高田さん
絹よりは重いですけど、完成品を試着すると、革を着ているという感じはしません。それくらい軽やかです。
一流の縫子が和裁の技術を革に応用
早奈恵さんに伺います。制作時に革素材と向き合って大変だったことは?

姫路市で和裁・着付け教室および着物の縫製を行っている高田和裁のおふたり。
早奈恵さん
そもそも絹を使った着物は、12~13mある反物を使い、縫い目をほどいたときに反物に戻せるように仕上げます。革一枚にはそれほどの長さがないので、どこでどのように革を継げばいいのか悩みました。結局、着物の縫い込みを入れるところを継ぐことで、和裁の作法の基本を今回の作品に落とし込むことができたと思います。
ほかに苦労したことはありますか。
早奈恵さん
まずは縫い方です。着物は一本の針で縫うのですが、革の場合は針が二本必要で、さらにパンチで穴を開けて縫う必要があります。いろいろな本を読んで勉強したのですが、和裁とはまったくやり方が違ったため、ミシン縫いに切り替えました。また、革には高温のアイロンを当てられないので、革が熱に耐えられる温度を見極めるのに苦労しました。
制作にはどれくらいの時間を費やしましたか。
早奈恵さん
ふだんの仕事の合間を縫うかたちで、ほかの縫子さんと役割分担をして制作を進め、およそ2カ月かかりました。
完成した作品について、どのような感想をいだきましたか。

信頼関係のもとにコラボを行った高田夫妻と水瀬会長。
早奈恵さん
完成後、ファッションショーでお披露目する機会に恵まれたのですが、すごく格好良くて、自分でもいいものができたな、とうれしくなりました。
水瀬会長
本当にビックリしました。まさかここまでの完成度になるとは思っていなかったです。

たもとの曲線など、革を使ってもしっかり着物らしいフォルムを意識。
高田さん
もう一度つくったらもっとよくなると思うけど、想像以上でした。革素材を使いながらも着物らしいフォルムを保っていて、高級感があり、格式高い作品に仕上がったと思います。展示だけでも注目してもらえる気がします。
水瀬会長
いや、海外だったら着てもらえますよ。日本ではきちんと着物として着る必要があるけど、海外ではその必要がないから羽織ることもできる。

海外でも注目を集めそうな完成度の革着物。
高田さん
たしかに、革を使ったことでいろいろな着方が考えられますね。未知の可能性を秘めた着物になったことは間違いないです。