素材から作りまでメイドインジャパン。
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日本のタンナーTanner

依頼者の声に耳を傾け、求められる革を一枚からつくる
株式会社 オールマイティ(兵庫県姫路市)

オールマイティが開発したカーフレザー「渋山水」。なめらかな手触りが魅力。

柔軟な対応力が評価され全国から注文が殺到

木製とステンレス製のドラムは、用途によって使い分ける。

兵庫県姫路市に工場を構える株式会社 オールマイティの設立は2008年。なめしから仕上げ加工まで行える一貫生産体制を構築し、一枚からの革つくりに対応しているタンナーだ。クリエイターやデザイナーから厚い支持を得ている。

「おかげさまで、小ロットから幅広いオーダーに対応していることが広く知られるようになり、『本当にオールマイティですね』といった声をかけていただく機会が増えました」

30代前半の若さながら、株式会社 オールマイティを牽引する水瀬社長。

そう語るのは、水瀬大輝代表取締役社長。2022年末に父の隆行さんから代替わりし、「今は慣れない経理も担当しています」と、照れ笑いを浮かべる。

「タンナーの世界では、10年で一人前とよく言われます。僕は今年、オールマイティで働き始めて11年目になるので、ようやく父に認められたのかもしれません。まだまだ父に適わない部分はありますが、知識、技術、柔軟な対応力と、10年以上働いたことで、ある程度の自信がついたのは事実です」

手吹きのスプレー塗装で、革をオーダーどおりに染める。

もちろん、根幹となるタンナーとしての方針はこれまでと変わっていない。

「父のやり方に共感しているので、その意思を引き継ぎたいと強く思っています。どんな注文でもイエスと応じたいし、風合いや色味についてお客様と綿密な打ち合わせをして、期待に応える革づくりをしていきたいです。納期までのスピード感にも自信があります」と、力強く話す。

外気温や湿度に左右されず、一定の室温で革を乾かすことができる乾燥室。

実際の革づくりとなると、少数精鋭のタンナーゆえに水瀬社長が受けもつ作業領域はじつに広い。「革の品質の8割はここで決まると言われています」というなめしから、繊細な色彩感覚を必要とする手吹きのスプレー塗装、一定の室温を保つ乾燥室における乾燥、年季の入ったドラムを用いる空打ちなど、どれも大切な工程だ。一つひとつの作業における基本を身に付け、その技術をオーダーに応じて応用することで、依頼者のイメージを具現化した世界に一枚だけの革が完成する。

「革製品は経年変化による風合いの変化が楽しめ、丁寧にケアすれば、何世代にもわたって使うことができます。その土台となる革づくりをするうえでは、100年使われる可能性を考えつつ、お客さんの理想に近づけるべく努めています」

命を無駄にせず有効活用するのがタンナーの本分

ステンレスドラムは小ロットのサンプルづくりに最適。取材日はカメの皮をなめしていた。

求められる革をつくるのが得意な同社ではあるが、自社開発のオリジナルブランドも取り扱っている。その代表例が、カーフを使用したタンニンなめしの「渋山水」だ。

「カーフはきめが細かくデリケート。使用する水の量や温度、薬品の分量なども含め、徹底的に研究したレシピでなめしています。暑くても寒くても、ドラムの中を常に一定の状態にしなければ、安定した革の供給ができなくなります」

日本エコレザー基準のエキストラ認証を取得した「姫山水」の検品。

もうひとつの代表作「姫山水」は、姫路発祥の白なめし(薬品を使わず、水、塩、菜種油のみで皮をなめし、天日干しで乾燥させる手法)を現代風にアレンジしている。

「軽さとやわらかさを追求したカーフレザーで、肌触りも抜群です。ちなみに姫山水は、日本エコレザー基準(JES=Japan Eco leather Standard)において、もっとも審査の厳格なエキストラ認証を取得しています」

このように、エコレザーの製造も行っている同社。近年は、時流に合わせた環境対策をさらに推し進めている。

「世界的な流れとして、SDGsやサステナブルに紐づく問題がよりシビアになってきています。その中で行っている取り組みのひとつが、ジビエレザーの製造です。全国の自治体や猟師から依頼を受け、害獣として駆除されたイノシシ、クマ、鹿の皮をなめしています。命を無駄にせず有効活用することはタンナーの本分なので、今後もジビエレザーの製造は継続していきたいです」

鹿革のキズを活かし、陶器の修復方法である金継ぎに着想を得た手法でアレンジ。独創性が光る。

30代前半という若さを活かし、新たなチャレンジを続ける水瀬社長。今秋からは本革に興味のある20代の女性が新たな仲間として加わり、新体制で革づくりに臨んでいる。

「彼女は事前にタンナーの仕事について詳しく調べるなど、驚くほどの熱量を持っています。性別に捉われず、自分なりの感性を活かして革づくりに打ち込んでほしいですね」

世代交代によって吹く新たな風が、これまでにない革を生み出す日を楽しみに待ちたい。
2023/8/29 公開
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