工場の環境面を整え、革づくりに邁進
有限会社 新喜皮革 × 株式会社 コードバン

ダービーシリーズを持つ新田社長(左)と水野工場長(右)
緊密な連携のもとにものづくりを行っている有限会社 新喜皮革と株式会社 コードバン。今回は、有限会社 新喜皮革および株式会社 コードバンの代表である新田芳希さん(以下、新田社長)、株式会社 コードバンで工場長を務める水野卓さん(以下、水野工場長)に取材を行い、レザーアイテムブランド「THE WARMTHCRAFTS-MANUFACTURE」(ジ・ウォームスクラフツマニュファクチャー、以下、TWCM)の最新の動向と、LWG(Leather Working Group=皮革の安全や環境対策を啓蒙・監査する国際団体)認証取得について語っていただいた。
人気のダービーシリーズに新アイテム登場
最近のTWCMの動向についてお伺いします。前回の記事で、オイルコードバンを使用している「DERBY」(以下、ダービー)について話を伺いました。ダービーより一回りサイズが小さい「DERBY-MEDIUM」(以下、ダービーミディアム)は、どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。

ビジネスパーソンに最適なサイズ感のダービーミディアム。
水野工場長
もともと、大判のダービーを先行してつくったのですが、より普段使いに適したサイズ感のものをつくろうということで製品化したのがダービーミディアムになります。サイズ感以外のディティールはダービーとほぼ変わりません。ほかにも型違い・サイズ違いがあり、たとえばダービーミディアムよりさらに小さい「DERBY-MINI」(ダービーミニ)は、女性から支持を得ています。
ダービーコレクションの新機軸として、新しい革を使い始めたそうですね。
新田社長
最近になって、泥染めをした馬革でもダービーをつくってみました。泥染めというのは奄美大島で行われている大島紬の染色方法です。日本の伝統技法を革に取り込むことで、メイドインジャパンのアイテムとして海外の方にアピールできればという発想で始めました。
泥染めとはどのような技法なのでしょうか。

絞り模様の泥染め馬革を用いている新アイテム。
新田社長
まず、バラ科植物の車輪梅(しゃりんばい)を煮出した液体に革を何度も漬け込んだのち、泥田に浸します。車輪梅に含まれるタンニンが泥の鉄分と反応し、革が黒色に変化します。今回のサンプルに使った革は、絞ることで色合いに変化をつけています。
前回、ゆくゆくは自社で鞄の製造を手掛けていきたいとおっしゃっていましたが、何か進展はありましたか。

新商品の開発について語るTWCMの水野工場長。
水野工場長
ここ一年ほど、外部の鞄職人を定期的に招き、技術を教えていただいていました。実際に商品化した鞄も何点かあります。だいぶノウハウが蓄積されてきたので、近いうちに量産体制に入る予定です。
LWGのゴールドランクを取得
LWG認証の取得を目指すことになったきっかけを教えてください。

LWG認証取得の概要について話してくれた新田社長。
新田社長
海外のタンナーの影響が大きいですね。イタリアや香港の展示会に出展すると、周囲のタンナーの大半はLWG認証を取得しています。そこで今後の展開を考えたときに、弊社もLWGを取得するべきだろうと判断しました。実際に、LWGを取得していないと取引できないメーカーさんは増加傾向にあります。
取得に至るまではどのようなプロセスを踏むのでしょうか。
新田社長
LWG認証を取得するためには、既定の監査項目をすべてパスする必要があります。そのためには、工場内の設備や安全性を改善する必要があるのですが、単独でやるよりもコンサルタントの方にアドバイスをいただいた方がスムーズという話を聞き、姫路市・たつの市のタンナー数社と共同でインドのコンサルタントの方を招き、アドバイスをいただきました。コンサルタントの方には、2023年の11月から3、4回来ていただきました。
具体的にどのようなことを改善されたのでしょうか。

緊急時に使用するシャワーを複数設置。
新田社長
はじめに指摘されたのは、工場の整理整頓や衛生面です。排水の汚れや染料容器の並べ方などの整理整頓を行いました。安全面に関しては、工場内にラインを引いて動線を明確にするほか、廃液や空気中に有害な物質がないか数値を測定しました。また、各種安全装置や緊急時に使うシャワーの設置、薬品および危険物の管理などを行いました。
監査はいつ行われ、どのような結果になりましたか。
新田社長
2025年の2月です。監査人による監査項目のチェックが行われ、しばらく結果の連絡を待ちました。LWGにはランクが4段階あり、当初はシルバーを目指していましたが、結果的には最上位のゴールドを取得することができました。改善に努力した従業員が喜んでいて、僕もうれしくなりましたね。ただ、取得して終わりではなく、2年ごとに認証の更新で工場検査があるため、維持のための努力も必要になります。
LWG取得によって商取引に結びついたケースはありますか。
新田社長
いま、ゴールド認証を取得しているタンナーとしか取引しないメーカーさんと取引の話が進んでいます。効果は確実にありました。
認証取得後の展望について、いま考えていることを教えてください。

ラインを引き整理整頓を行った工場内。
新田社長
LWG認証を取得したことで、新喜皮革の名前がさらに広まっていくことを望んでいます。海外ではまだまだ浸透していないので、どこの国に革を出しても「あの新喜皮革の革だ」といわれるようになったら理想的ですね。